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【イチローの実績以外の“凄さ”】知られざるイチローのスペイン語能力 日本の安打製造機がラテン系の選手から尊敬を集める理由

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ヤンキースイチロー外野手は、高い英語力を誇ることで有名だ。米メディアの取材には通訳を介して答えるものの、チームメートとは何も不自由することなく話すことができる。実際に、打撃練習中にデレク・ジーターらと談笑する姿は、球場に行けば毎日見ることができる。


 ただ、スペイン語も堪能だということを知っている人は、いったいどれだけいるだろうか。メジャーにはラテン系の選手が多く、クラブハウスではスペイン語が飛び交う。そして、イチローはそんな選手たちとも親密な関係を作り上げている。米高級紙のウォール・ストリート・ジャーナルはこのほど、日本が生んだ安打製造機のスペイン語能力を取り上げた特集記事を掲載した。

イチローのスペイン語は放送不可能 日本人スターのスペイン語による饒舌なトラッシュトークは内野手の間で有名になっている」

 こんなタイトルが付けられた記事は、実に興味深い内容となっている。

 初めに紹介されているのは、レッズのラモン・サンティアゴ内野手が明かしたエピソードだ。2003年、当時タイガースに所属していたサンティアゴにとっては衝撃的な出会があったという。初回にヒットを放ったイチローは、すかさず二盗に成功。軽快なスライディングから立ち上がると、無表情なまま「No corro casi」と話しかけてきたというのだ。

「ほとんど走ってないよ」

 流暢なスペイン語でこんな意味の言葉をかけると、サンティアゴが笑い終わる前にイチローは三盗に成功したという。「彼がいつも通訳を介して英語の会話をしていたことは知っていたから、まさかそんなにうまいスペイン語を話せるとは思ってもみなかったよ」。サンティアゴは当時のことをそう振り返っている。

「日米で偉大な記録を打ち立ててきたイチローには、選手や観客から国際的な人気を誇っている。ただ、気の利いたスペイン語を口にすることで、メジャーのラテン系コミュニティから特別な尊敬を集めることとなった」

 記事では、メジャーでのイチローの立場について、こう表現している。確かに、イチローがラテン系の選手と談笑したり、ふざけ合ったりしている場面はよく見られる。それは、クラブハウスや試合前の打撃練習だけにとどまらない。出塁したイチローにラテン系の選手が寄っていき、コミュニケーションを取ることもしばしばある。

 

一塁手としてレイズなどで活躍してきたカルロス・ペーニャも、こんなエピソードを明かしている。あるとき、内野安打で出塁したイチローは、じっと見つめてから「Que cono tu mira?(何見てんだよ?)」と話しかけてきたという。ペーニャは笑いをこらえるのに必死だったというのだ。

 イチローにとって、ラテン系の選手はある意味で特別な存在のようだ。記事では「イチロー自身は野球人生の中で次第にスペイン語を覚えただけで、会話を続けられるわけではないそうだ。しかし、ストイックな印象とは裏腹に、彼はラテン系の選手を見るとちょっかいを出さずにはいられないようだ」と触れている。

 そして、イチロー自身もラテン系の選手に対する思いを同紙の取材に対して明かしている。

「親近感があるんですよね、僕らはみんな知らない土地の外国人だから。僕らはここにやってきて、同じような困難に対応しなければいけない。ちょっとしたスペイン語を投げかけたら、彼らはすごく面白がってくれるし、それが絆を強めるような気がします。加えて、日本にはそんな汚い言葉がないから、西洋の言葉じゃなきゃ言えないことを自分が言っちゃう、というのが好きなんです」

 マリナーズヤンキースでともにプレーし、イチローの大親友として知られるラウル・イバネスは、その高い学習能力に感心しきりだという。イチローが教材を使ってスペイン語の勉強をしていることは見たことがないが、スポンジのように吸収していくというのだ。

「彼は頭が切れて観察眼も鋭くて、すぐにスペイン語を身に付けるんだ。ラテン系の選手が話しているのを聞きつけたら、僕らが言った通りに真似て「どういう意味?」って聞いてくる。彼は完璧主義だから、スペイン語を話すときもちゃんと話したいんだろうね」

 親友の能力について、イバネスはこう明かしている。

 ただ、この考えを英語に当てはめると、1つの疑問も浮かんでくる。高い英語力を誇るイチローは、完璧主義者にもかかわらず、米メディアのインタビューを受ける際になぜ通訳を使うのか。

「僕がインタビューを受けるとき、恐らく人々は僕が何かについてどう感じたか、だとか、僕の意気込みを知りたいからで、僕が英語で話すのを聞きたいわけじゃない。自分の野暮ったい英語で答えたら、要求に応えられないかもしれない。もしかしたらその瞬間は楽しいかもしれないけど、僕の考えが知りたくて彼らは聞いてきているだろうと信じているので。母国語で返答したほうが、自分をちゃんと表現できていいんです」

 イチロー自身は、こう理由を明かしているという。

 

ただ、ベース上での非公式な会話となると別なようだ。イバネスは、イチローのスペイン語習得の努力が、他の選手たちに大きな財産をもたらしていると考えている。

「彼は偏見を持たれることにとても敏感なんだと思う。自分の立場やこれまでの業績を理解した上で、そういった機会を使って短い言葉で彼の別の側面を見せているんだ。カルロス・ペーニャはいつまでも、ほかのいろんなことよりも(イチローとのやりとりを)覚えているだろう。引退したときに、チームメートや対戦相手と交流した瞬間が財産になる。イチローがみんなに残そうとしているものはそれで、みんな彼が殿堂入りプレイヤーだと知っているから偉大な財産だよ」

 記事では、イバネスの言葉を証明する具体的なエピソードがさらに紹介されている。

「現在、タイガースでプレーするビクター・マルティネスは、インディアンスで捕手だった時に、イチローが『muy peligroso(超危険)』という単語をふざけて誰かに言うのを聞いた。別の機会にイチローが打席に立った際、マルティネスは同じ言葉をかけると、笑われたという。それからの打席で、イチローは打ちにくい球をファウルにすると、ためらわずに『Mala mia(悪いね)』とスペイン語で冗談を飛ばすようになった」

 現在のメジャー最強打者との心温まるエピソードもある。昨年まで2年連続MVPに輝いたタイガースのミゲル・カブレラとも、イチローはスペイン語でコミュニケーションを取っているという。

 2004年のヒューストンでオールスターゲームが開かれたとき、7人のベネズエラ選手が記念撮影の準備をしていると、そこにイチローが入るよう呼ばれた。結果的に写真には8人の選手が写ったが、これが当時マーリンズに所属していたミゲル・カブレライチローの最初の出会いだったという。そして、記事はこんな後日談で締めくくられている。

「月日が経ち、カブレラはタイガースの一員としてイチローのいるヤンキースと試合をした。カブレライチローが走路に現れた時に『Feo!』と叫んだ。『醜い』と言われたことを理解したイチローは、笑顔でスペイン語を返したが、その言葉は英語でも印刷するのに不適切なものだった」

 ラテン系の選手たちにとって、イチローはカリスマでありながら、よき友人でもある。だからこそ、尊敬を集める。この記事に登場した選手だけでなく、昨季までヤンキースに所属していたマリナーズのロビンソン・カノや、レッドソックスのデビッド・オルティスらとも親密な関係を築いている。

 イチローが出塁し、ベース上でラテン系の選手とコミュニケーションを取っているとき、どんなくだらない会話をしているのか。そんなことを想像して試合を見ていると、新たな楽しみが生まれてくる。